中絶をめぐる2つの立場――「プロライフ」と「プロチョイス」とは?

妊娠・出産というテーマは、とても個人的で、そしてとても社会的な問題でもあります。
特に「中絶」をめぐっては、世界中で意見が分かれ、アメリカでは長年にわたって激しい論争が続いてきました。
その論争の中心にあるのが、「プロライフ(Pro-Life)」と「プロチョイス(Pro-Choice)」という2つの立場です。
これらは、直訳すれば「命を守る立場」と「選ぶ自由を守る立場」。
ですが、実際にはもう少し複雑で、深い考え方が背景にあります。
■ プロライフ(Pro-Life)とは?
胎児の命を守ることを最優先とする立場です。
「お腹の中にいる時点で、すでに人間の命が始まっている」と考え、
中絶を「命を奪う行為」として強く反対します。
この立場の人たちは、多くの場合キリスト教的な倫理観に根ざしており、
命は「神から与えられたものである」「誰にもその命を奪う権利はない」と信じています。
つまり、「母親の事情よりも、胎児の命を守ることが優先されるべきだ」という考え方です。
▶︎日本との違い
日本でも「命の尊さ」は広く共有されていますが、宗教的な背景は比較的希薄です。
ただし、日本の法律においても、中絶は原則として違法とされていることをご存知でしょうか。
刑法212条~214条により、中絶は「堕胎罪」として処罰の対象とされており、
ただし「母体保護法」に基づき、母体の健康上の理由や経済的事情がある場合に限り、医師の判断のもとで行われる場合のみ合法とされています。
つまり、一定の条件下でのみ例外的に認められているという点では、日本も
「原則としては違法」という位置づけなのです。
■ プロチョイス(Pro-Choice)とは?
女性の「選ぶ自由」を最優先とする立場です。
「妊娠・出産は本人の体と人生に関わる重大な選択であり、他人が決めるべきではない」と考えます。
中絶を法律で禁止することは、女性の権利や健康、ひいては命を奪う危険がある、という立場から、
「中絶を選べる自由」を守ることに重きを置いています。
背景には、性被害・経済的困窮・家族からのサポートのなさなど、
個人が直面している現実的な困難への配慮があります。
▶︎日本との共通点
日本でも、望まぬ妊娠に悩む女性の多くは、誰にも相談できず、孤立したまま決断を迫られています。
その意味では、「選ぶ自由」と「その自由を支える社会的支援」は、日本でも大きな課題です。
■ では、どちらが正しいのか?
この問いに「正解」はありません。
命の尊さと、人生を決める自由。
どちらも大切で、どちらも人間として尊重されるべき価値です。
ただし、**問題は「対立」することではなく、「選択肢がないこと」や「支援が届かないこと」**です。
・出産しても育てられない
・中絶するにも安全な医療が受けられない
・誰にも相談できず、ただ不安に押しつぶされる
そんな現実を変えていくために、必要なのは「命を守るか」「自由を守るか」ではなく、
**「命も、自由も、守れる社会の仕組みをどう作っていくか」**だと、私は思います。
■ 最後に
アメリカでは、政治や宗教が中絶の是非に深く関わっています。
一方、日本では、そうした表立った論争は少ないかもしれませんが、
「見えない孤立」や「知られない支援の不足」が深刻です。
中絶は是か非か――と決めつける前に、
目の前の命と、声を上げられない人の存在に、静かに耳を澄ませること。
それが、私たちにできる第一歩かもしれません。
※このコラムは、政治的・宗教的な立場を支持するものではありません。
誰もが安心して相談でき、命を守り、未来を選べる社会づくりの一助となることを願って書いています。









